研究紹介

やっと、みなさんに本研究室の研究内容を説明できるところまで来ました。みなさんは残念に思うかもしれませんが本研究室では核融合反応を起こして研究しているわけではありません。あくまで、将来の核融合炉を作るための基礎研究を行っています。具体的にはLHDというプラズマ閉じ込め装置でレーザーおよびマイクロ波を駆使してプラズマの閉じ込め状態を探っています。

2.2で述べたように核融合を起こすには高いエネルギー状態でプラズマを閉じ込める必要があります。そのためには、将来の核融合炉では重水素や三重水素を現在の実験装置では軽水素をまずは電子とイオンに分離したプラズマ状態にし、これを磁力線で閉じ込めます。外部からレーザー光やマイクロ波を入射するのですが、これは、お医者さんの聴診器のようなものです。お医者さんが聴診器をあてて体調を調べるようにプラズマの体調(?)を調べます。お医者さんは時々、胸を少し叩いてみたりしますよね。同じようにプラズマにも外部から擾乱を与えて、その伝わり具合からプラズマの様子を調べたりします。いうなれば、我々の研究室ではプラズマのお医者さんを養成していると言ってもよいかもしれません。ただ、プラズマの様子を調べるだけでなく、様子を調べるための道具を作ります。この道具がレーザー、マイクロ波計測です。プラズマの計測は高度に専門化されており、我々が取り組んでいる計測は市販品がないのです。よって、みずから計測の必要な性能を考え、システムを設計し組み立て、動かし、計測データを解析します。そして、解析結果の物理的意味を考えます。

本研究室を志望される方は核融合に興味がなくてプラズマ物理やレーザー、マイクロ波計測に興味がある方でもかまいません。実のところ、大学の先生(私のことはさておき)は優秀な方が多いので、研究の位置づけよりは目の前の物理の面白さを重視される方もいます。ただ、私としては核融合研究の重要性と現在抱えている課題を理解したうえで研究に取り組んでほしいと思います。私は大学4年生のときに核融合の研究をしたくてレーザー計測を行っている研究室に入りました。新しいエネルギー源として核融合にロマンを感じていたのですが、研究室で行われている研究は核融合反応を用いた研究と大きくギャップがあり少しばかり失望しました。また、研究テーマが計測の基礎開発だったこともあり、核融合どころかプラズマさえ触れることがなかったので私の当初の希望と研究課題に大きな差があり、ずいぶんとジレンマを感じました。ただ、計測の開発を進めていくうちにレーザー計測の面白さが分かり、修士課程で計測の詳細を勉強したことがその後の研究に大きく役立ちました。研究の動機は夢やロマンまたは使命感であるのですが、研究の推進力となるのは研究の面白さなのです。もしかすると、みなさんも私と同じようなジレンマを感じることになるかもしれませんが、最初は分からなくても研究テーマに必死にかじりつけば、修士課程を修了するころには研究の面白さが分かると思います。

現在、私たちの研究室では三つの計測の開発に取り組んでいます。そして、これらの計測を使って磁場閉じ込めプラズマを理解するための研究に取り組んでいます。これらの三つの計測は密度分布と電磁的巨視的揺動を計測するCO2レーザーイメージング干渉計、乱流揺動を計測するCO2レーザーイメージング二次元位相コントラストイメージング、それからイオン温度、イオン密度を計測するマイクロ波協同トムソン散乱計測です。

6-1. CO2レーザーイメージング干渉計

LHDには実験開発当初より波長119mmの遠赤外線レーザーを用いた13チャンネルの干渉計が稼動しています。線赤外線レーザー干渉計は極めて感度が良く、安定して動作するために実験の密度モニターや比較的低い密度での密度分布計測に非常に活躍しました。特に電子密度の空間構造とその空間構造を決定する物理機構を明らかにする研究[17]のための密度分布のデータはすべて遠赤外線レーザー干渉計で計測したものです。ただ、この干渉計には大きな問題がありました。一つは電子密度が高くなると計測できなくなることです。図5-10(a)に示すように水素の氷の燃料(水素ペレット)を一発だけ入射した実験では、中心密度が6x1019m-3程度までは問題なく計測できるのですが、これを何発も入射して密度がそれより高くなると計測不能に陥ってしまいました。これは密度が高くなると屈折によりレーザー光が曲がり検出器に信号が届かなくなること、および、急激に密度が変化し、急激に位相変化するため、検出器が追随できなくなってしまうためです。また、干渉計のコードは13チャンネルですがプラズマ中を通過するのはそのうち10チャンネルです。その結果、どうしても詳細な空間構造を計測することができませんでした。

これらの問題を解決するために私たちの研究室では新しい干渉計を開発しました。新しい干渉計は遠赤外線レーザー干渉計と二つの大きな違いがあります。一つは使用しているレーザーです。波長119mmの遠赤外線レーザーに対し、私たちはそれより一桁波長が短い波長10.6 mmのCO2レーザーを光源に用いることにしました。遠赤外線レーザーは市販品がないため、その開発に大変な労力が必要だったわけですが、CO2レーザーは産業用に幅広く用いられているため、レーザー技術が進展していました。よって、安定した光源を入手することができました。また、遠赤外線レーザーでは幅が約50mmの1本のビームを1個の検出器で計測していましたが、CO2レーザー干渉計ではシート状のビーム(30x250mと30x280mm)のビームとし、望遠鏡やカメラのようにレンズを組み合わせた結像光学系をつくり、1本のビームを16または32チャンネルの検出器で計測することにしました。結像光学系による像を計測するのでイメージング干渉計と名づけました。3本のシートビームを用いるので合計80チャンネルという大幅なチャンネルの増加に成功しました。このチャンネル数は現在稼動している高温プラズマの実験装置では世界最高だと思います。

波長を短くすることにより屈折の効果ははるかに小さくなります。結論だけ申しますと屈折によるビームのベンドの効果は1/10になります。ただ、問題もあり、(5-1)式に示すように干渉計の位相変化はレーザーの波長に比例するので位相変化が1/10になります。さらに厄介なことに波長を短くすることにより遠赤外線レーザーでは問題にならなかった機械的振動による位相変化が大きくなり大きなノイズ源となります。干渉計は図5-8に示した空気ばね付の架台の上に設置しているのですが、それでも架台の上としたでは1mm程度の振動があります。波長119mmの遠赤外線レーザーにとっては振動の影響は波長の1/100ですが。波長10.6mmのCO2レーザーにとってはその影響は波長の1/10なのです。よって、振動に対するSNR(Signal to Noise Ratio;信号対雑音比)は遠赤外線レーザー干渉計に比べてCO2レーザー干渉計は100倍悪くなるのです。そこでこの問題を解決するために波長1.06mmのYAGレーザーをCO2レーザーと同じ光軸に重ねて振動をモニターすることにしました。波長1.06mmのYAGレーザーはプラズマによる位相変化はほとんど無視でき振動のみ計測できます。よって、CO2レーザー干渉計で電子密度と振動による位相変化を計測し、それからYAGレーザー干渉計で計測した振動による位相変化を差し引いて電子密度による位相変化を計測することに成功しました。

図6-1にCO2レーザーイメージング干渉計のシステムを示します。(a)に示す干渉計の架台は図5-8と同じ架台です(図5-8と反対方向から見た図になっています。)。(b)はプラズマ中の干渉計のコードを示したもので全部で80チャンネルあります。(c)の赤線で示すようなシートビーム3本と青線で示すようなヘテロダイン検波用の細いビームを1本入射します。干渉計の架台の下部には(d)に示すようにCO2レーザー、YAGレーザー、HeNeレーザーを設置しています。CO2レーザー、YAGレーザーは目に見えなくて調整が大変なので同軸に目で見える波長633nm(赤い光)のHeNeレーザーを入射してレーザー光軸の調整を行います。AOMはAcoustic Optical Modulator(音響光学素子)のことで、これでヘテロダイン検波のビート信号用に周波数をシフトします。図5-7の周波数シフターにあたりますがCO2レーザーは40MHzと40.1MHzで0.1MHzのビート信号をYAGレーザーは40MHzと40.99MHzで990kHzのビート信号が生成されます。位相は図5-7に示すようなビート信号のゼロクロスを電子回路で検知するアナログ回路による位相計測と1MHzのデジタルサンプリングによる数値計算による二つの手法で計測しています。

架台の上部には(d)に示すような検出システムをそれぞれのビームに合計3ケース設置しています。CO2レーザー干渉計の検出には液体窒素冷却で感度を高めた光伝導型光検出器をYAGレーザー干渉計にはアバランシェフォトダイオードを用いています。振動計測用のYAGレーザー干渉計は各ビーム5チャンネル合計15チャンネルです。

図6-1 (a)CO<sub>2</sub>レーザーイメージング干渉計システム全体図(b)計測断面図(c)入射ビーム(d)検出システム(e)レーザーしいステム[18]
図6-1 (a)CO2レーザーイメージング干渉計システム全体図(b)計測断面図(c)入射ビーム(d)検出システム(e)レーザーしいステム[18]

図6-2に振動補正の効果を示します。青線で示したのがCO2レーザーで計測した位相変化でノイズが大きいことがわかります。一方赤線で示したのがYAGレーザーで計測した振動による位相変化を差し引いた後の信号で劇的にノイズが減っていることがわかります。

図6-2 CO<sub>2</sub>レーザーイメージング干渉計とYAGレーザーイメージング干渉計による振動補正の効果[19]
図6-2 CO2レーザーイメージング干渉計とYAGレーザーイメージング干渉計による振動補正の効果[19]

図6-3に水素ペレットを連続入射したときの遠赤外線レーザー干渉計とCO2レーザーイメージング干渉計の計測結果の比較を示します。図6-3(a)に示すように遠赤外線レーザー干渉計ではペレット入射後の計測不能に陥っています。しかしながら図6-3(b)に示すようにCO2レーザー干渉計ではすべての計測コードで問題なく計測できていることがわかります。

図6-4にCO2レーザーイメージング干渉計で計測したデータを用いてアーベル変換を行って求めた電子密度の空間構造を示します。比較のためにトムソンで計測した電子密度の空間分布も同じ図に重ねがきしました。トムソン散乱の絶対値は積分値がトムソン散乱のレーザーと同じ視線を通過しているマイクロ波干渉計の値と一致するように決めています。中心密度に差がありますが、分布形状は両者の計測でおよそ一致しています。トムソン散乱は局所計測ですがデータがどうしてもばらついてしまうこと、パルス計測なので時間連続的な計測ができないことが問題となります。一方、干渉計の計測値は位相計測なのでレーザーの強度の変化や、検出器の感度の変化に対して計測量が影響を受けないこと、それから時間連続的に計測できることに利点があります。しかし、アーベル変換は磁気面上で密度が一定であることを前提としており、その前提が崩れるような構造が生じた場合は密度分布を計測できないことになります。

図6-3 ペレット入射高密度放電における(a)遠赤外線レーザー干渉計による計測,(b)CO<sub>2</sub>レーザーイメージング干渉計による計測[18]
図6-3 ペレット入射高密度放電における(a)遠赤外線レーザー干渉計による計測,(b)CO2レーザーイメージング干渉計による計測[18]
図6-4 CO<sub>2</sub>レーザー干渉計で計測した電子密度分布とYAGレーザー非協同トムソン散乱で計測した電子密度分布の比較。図6-3における(a) 1.2sec. (b) 1.7sec[18]
図6-4 CO2レーザー干渉計で計測した電子密度分布とYAGレーザー非協同トムソン散乱で計測した電子密度分布の比較。図6-3における(a) 1.2sec. (b) 1.7sec[18]

干渉計は密度分布計測のほかにもプラズマ中の電子密度の揺らぎも計測することができます。揺らぎにもいろんな種類の揺らぎがあるのですが、干渉計で計測できるのは比較的揺らぎの振幅が大きい電磁不安定性に起因する揺らぎです。この種の揺らぎが成長するとプラズマが崩壊することがあります。特にトカマクでは深刻でプラズマが完全に崩壊してしまい、プラズマが消失するだけでなくそのときに生じる電磁力で装置を損傷してしまうことがあります。一方、LHDのようなヘリカル型装置では閉じ込め磁場が外部コイルで常に維持されるため、電磁的な不安定性によるプラズマの完全な崩壊は起こりませんが部分的な方向を起こすことがあります。

図6-5にペレットを連続入射したときに発現したプラズマの部分崩壊時の前兆信号の計測結果を示します。(c)に示すようにプラズマ中心部の密度が大きく減り周辺部が増大します。(e)に示すように崩壊現象が起きる前に振動が生じ、この振動が成長することにより部分崩壊現象が起きることがわかりました。この前兆信号は(a)に示すように時期軸より内側のコードでは観測されておらず(d)に示すように磁気軸外側に局在した構造であることがわかりました。

図6-5 LHDにおけるプラズマの電磁的崩壊現象の前兆信号
図6-5 LHDにおけるプラズマの電磁的崩壊現象の前兆信号
(a)プラズマの磁気軸より内側領域の前兆信号(b)計測断面(c)積分線密度の崩壊前(赤)、崩壊後(黒) (d)前兆信号の空間構造、(e) 磁気軸より外側領域の前兆信号

6-2. CO2レーザー二次元位相コントラストイメージング(2D-PCI)

CO2レーザーを用いたもう一つの計測はプラズマ中の電子密度乱流を計測するためのCO2レーザー二次元位相コントラストイメージング(Two dimensional phase contrast imaging;2D-PCI)です。 以下、簡単のために本計測法を2D-PCIと呼びます。

まず計測対象であるプラズマ中の乱流について簡単にお話します。どうして乱流を計測するのでしょうか?それは、乱流がプラズマの閉じ込めを悪くする原因と考えられているからです。図6-6(a)に示すようにプラズマの構成物質であるイオンと電子は磁場の磁力線にまきついて閉じ込められています。“大型ヘリカル装置”の頁の図3-3の動画に示したようにらせん状にねじれた磁場があれば、電子、イオンは閉じ込めることができるのですが、残念ながら完全に閉じ込められるわけではありません。電子、イオン間、電子同士、イオン同士でクーロン衝突を起こし、これにより電子、およびイオンはプラズマの外側に拡散してしまいます。この磁力線に巻きついた電子、イオンの衝突による拡散効果は閉じ込め磁場の幾何構造が単純な場合理論的に定式化することができます。最も単純な直線的な磁場で衝突による拡散を古典拡散と呼び、リング状にねじれた磁場での拡散を新古典拡散とよびます。単純な磁場では新古典拡散係数は数式で表現できますが、現在稼動している閉じ込め装置では磁場の幾何構造は複雑であり数値計算により計算する必要があります。

図6-6 (a) プラズマ中での荷電粒子間の衝突仮定 (b) 赤線で示す乱流揺動が存在すると拡散が増大する。
図6-6 (a) プラズマ中での荷電粒子間の衝突仮定 (b) 赤線で示す乱流揺動が存在すると拡散が増大する。
黒丸と白丸はイオン、電子を示す。
(図は核融合科学研究所横山雅之教授のご好意による)

ただ、さらに残念なことにこの新古典拡散よりも多くの場合実際の実験装置のでの拡散係数が大きいのです。装置や、磁場構造にもよりますが実験装置での拡散係数が新古典拡散係数よりも一桁以上も大きいことがあります。これは新古典理論で説明できず、異常に拡散が大きいということで異常拡散と呼ばれています。図6-7(a)はLHDで計測した拡散係数でプラズマのほぼすべての空間領域で一桁以上高い拡散係数となっていました。この原因は衝突以外にプラズマ中の乱流があり、図6-6(b)に示すように衝突効果に乱流の作用が重畳されて拡散がおおきくなると考えられています。電子密度、イオン密度、電子温度、イオン温度、ポテンシャル、磁場などのプラズマの物理量にはすべて乱流成分があります。たとえば、プラズマ実験の頁の図3-5に示すように乱流揺動が減少すると電子密度が増加を始めます。これは、乱流揺動の減少に伴い、拡散が減少し、その結果電子密度の閉じ込めが改善したためだと解釈できます。

図6-7 (a) LHDにおける拡散係数の実験値と新古典値。ρは規格化した空間位置を示しρ=0がプラズマ中心、ρ=1がプラズマの周辺境界[21], (b)シミュレーションによるLHDの乱流[22]
図6-7 (a) LHDにおける拡散係数の実験値と新古典値。ρは規格化した空間位置を示しρ=0がプラズマ中心、ρ=1がプラズマの周辺境界[21], (b)シミュレーションによるLHDの乱流[22]

さて、プラズマ中での乱流揺動はどのような描像をしているのでしょうか?スーパーコンピューターを使ったシミュレーションによれば図6-7(b)のような描像していると考えられています。図6-7(b)は断面はぐちゃぐちゃなまさしく乱流というイメージに合った描像ですね。ただ、LHDのドーナッツの周回方向、じつはこれは閉じ込め磁場の磁力線方向になるのですが同じ構造が続いていますね。皆さん金太郎飴を知っていますか?飴を細長くして練りこんで断面が金太郎の顔のようにする飴です。どこを切っても同じ金太郎の顔が出てきます。閉じ込めプラズマも金太郎飴のような性質があるのです。これは磁力線方向には電子や、イオンの流れが非常に速いため均質になり温度、密度、ポテンシャルなどが磁力線方向には一定になります。これは乱流も同じで図6-7(b)に示すように磁力線に沿った方向には波の構造が保たれて、波長が非常に長くなります。通常流体の乱流は3次元構造を持つのですが、プラズマ中の乱流は磁力線方向が均質なので二次元構造になることが大きな特徴です。

ただ、実際にはこのような乱流の構造を詳細に計測することは容易なことではありません。一つは乱流の振幅が非常に小さいためです。プラズマの内部では揺らぎのレベルは0.1%以下です。図6-5に示すような内部崩壊をもたらすような大きな電磁的不安定背による揺動はヘテロダイン干渉計でも計測できますが、乱流揺動はヘテロダイン干渉計で計測するには振幅が小さく計測がほとんど不可能です。そこで微小な振幅を持つ揺動を計測する手法として位相コントラスト(phase contrast)という手法を用います。図6-8に原理を示します。

図6-8 位相コントラストイメージングの計測原理[23]
図6-8 位相コントラストイメージングの計測原理[23]
赤実線が入射レーザー光、青点破線と緑破線がプラズマ中の揺動(Density fluctuation)により散乱した散乱光

プラズマにレーザーを入射します。プラズマ中の電子密度揺動によりレーザー光は散乱します。この散乱現象は集団的な電子の動きによる散乱なので協同トムソン散乱ともいえます。”干渉計とトムソン散乱”の頁でお話した協同トムソン散乱はイオンの熱運動に追随して集団的に運動する電子による散乱ですが、ここでの電子の集団的動きは図6-7(b)のような電子密度の乱流による散乱です。レーザー光はプラズマに吸収されえないので電子密度揺動を通過する際に、電子密度揺動により引き起こされた屈折率の変動により位相が変化します。位相変化なので原理的にはヘテロダイン干渉計でも計測できるのですが位相変化量があまりにも小さく計測できません。そこで、次のようなトリックを使います。図6-8に示すように赤実線で示したレーザーの透過光と青破線、緑破線で示したレーザーの散乱光をレンズで集光します。散乱光は散乱角度を持つので焦点面上で集光位置が僅かにすれます。焦点面上で散乱光と透過光の間に90度(p/2)の位相差を与えると、位相変化を強度の変化に置き換えることができきるのです。位相差は光学的に透明な光学ガラスの厚さを入射したレーザー光の波長の1/4になるような溝を作っておきます。これを位相最多と呼びます。強度に置き換えるので結像面(imaging plane)上に検出器を置き、検出器の出力電圧の変化から微小な位相変化を計測できます。位相差板がなければ検出器出力電圧に変化が起きず何も計測することができません。

この手法は生物学で細胞の顕微鏡での観察に用いられてきました。植物や動物の細胞は透明なものがあり通常の顕微鏡では細胞の構造を見ることができません。位相コントラスト法を使うことにより透明であった細胞を可視化してその構造を見ることができます。最近では電子顕微鏡でもこの手法が適用されています。

プラズマ中の電子密度揺動を計測するのに波長10.6mmのCO2レーザーを用います。原理的には他の波長でも計測できます。ただ、この波長近辺は安定したレーザーとイメージング計測に必要な多チャンネルの検出器、および亜鉛化セレン(ZnSe)という窓材、レンズに用いられる良質な光学材料が開発されていることがあります。そのほかにも10.6mmより短くなると位相変化が小さくなり信号強度が小さくなること、逆に10.6mmより大きくなると散乱角度が大きくなり、大きな観測窓が必要になり、これらのことを考慮して10.6mmのCO2レーザーを使うことにしました。CO2レーザーは前の説で述べたヘテロダインイメージング干渉計としても使用でき、二つの計測に用いるのに十分なパワーがあります。

図6-9 2D-PCI (a)プラズマ中の計測位置, (b) ビーム入射の側面図, (c) システム全体図 [23]
図6-9 2D-PCI (a)プラズマ中の計測位置, (b) ビーム入射の側面図, (c) システム全体図 [23]

位相コントラスト法を用いることにより微小な揺動を計測できるのですが、さらにもう一つ大きな課題があります。それは乱流揺動の空間構造の計測です。乱流は図6-7(b)に示したように磁力線方向には均質ですがそれと垂直方向には位置によって大きく異なります。磁力線と垂直方向でどのように乱流揺動が構造を持つのかというのが閉じ込めとの関連を考える上で極めて重要です。ヘテロダイン干渉計ではアーベル変換をすることにより線積分値から局所的な密度を求めることができるのですが乱流揺動はそれができません。乱流揺動は進行方向を持つベクトル量であり、計測できるのは入射ビーム軸に直交した成分のみであるため、スカラ量を前提としたアーベル変換は行うことができません。また、図6-8中で水色で示した平行四辺形の部分が散乱体積になりますが、CO2レーザーを用いた場合散乱体積の長さLvは10mは以上となりビーム軸方向に空間分解を得ることができません。そこでもう一つトリックを使います。これはプラズマ中の揺動を性質を使ったトリックです。

図6-10に揺動の構造の模式図を示します。磁力線方向には非常に波長が長く、それと垂直方向には短い波長を持ちます。

図6-10 プラズマ中の揺動の構造の模式図 黒線が磁力線、水色と白が揺動を示す
図6-10 プラズマ中の揺動の構造の模式図 黒線が磁力線、水色と白が揺動を示す

図6-11(a)に示すようにレーザービームを入射します。ここでビーム軸をz軸としたx-y-z直交座標系を考えます。上から見ると(b)のようになっています。(a),(b)でプラズマ中で黒線で示したのが磁力線です。LHDの特徴ですが磁力線が空間方向に大きく角度が変化します。プラズマの上部と下部では+-50度程度異なります。よって(b)に示すように進行方向もプラズマの上と下で+-50度程度変わります。これを積分して計測するとどうなるでしょうか?(c)中の左側に示すように足し合わせて計測すると格子状のパターンを計測することになります。2D-PCIではこの格子状のパターンを6x8=48チャンネルの二次元の検出器で規則します。計測したパターンを二次元のフーリエ変換することによりそれぞれの成分に分解します。一旦分解できると、進行方向は揺動が存在する位置における磁力線に垂直なので、磁力線の空間構造がわかればそれから揺動の空間構造を決めることができます。LHDでは外部コイルで磁力線の空間構造が決まるため、計算でどこの空間位置の磁力線がどのような角度を持っているかを正確に評価することができます。(d)にx-y面上での波数スペクトルを(e)に(d)を極座標に変換した波数スペクトルを示します。x-y面上での進行方向θは磁力線に直交し、それはz軸に沿って変化しているのでz軸に沿った揺動の空間分布を得ることができます。図6-12に実際の実験データを用いた解析結果を示します。図6-12は1タイミングの計測です。これを1msecごとに行っています。1msecごと揺動の空間構造の時間変化を図6-13に動画ファイルで示しますので皆さん楽しんでください。

図6-11 (a)LHD プラズマと入射レーザービームの立体図,(b)上面図,(c)磁力線の方向の空間変化と揺動,(d)積分した揺動の二次元波数スペクトル,(e)極座標に変換した波数スペクトル[23]
図6-11 (a)LHD プラズマと入射レーザービームの立体図,(b)上面図,(c)磁力線の方向の空間変化と揺動,(d)積分した揺動の二次元波数スペクトル,(e)極座標に変換した波数スペクトル[23]
図6-12 実験データを用いた解析例 (a)積分した二次元揺動の像、(b)二次元フーリエ変換により求めたプラズマ下部揺動、(c)上部揺動、(d) (b)と(c)からもとめた揺動の空間構造 [24]
図6-12 実験データを用いた解析例 (a)積分した二次元揺動の像、(b)二次元フーリエ変換により求めたプラズマ下部揺動、(c)上部揺動、(d) (b)と(c)からもとめた揺動の空間構造 [24]
図6-13 揺動の動画

図6-14(a)に2D-PCIシステムの全体像を(b)に検出基部の拡大図を示します。多くの情報を取得できるのにもかかわらずシステムは比較的単純です。現在稼動中のシステムはレンズの位置を遠隔で動かすことができ必要に応じてイメージング計測の倍率を変えることができます。

(a) 2D-PCI検出器部
(b) 検出器部拡大図
図6-14 (a) 2D-PCI検出器部 (b) 検出器部拡大図 [23]

この章の最後に2D-PCIを用いた物理計測の結果についてお話します。図6-15はLHDにおいて高いイオン温度の達成を狙って実験した高イオン温度放電実験結果です。(a),(b)に示すように中性粒子ビームを追加熱することにより電子温度とイオン温度を高くすることができました。この放電においてイオン温度が上昇する前の低いイオン温度のタイミングlow Ti phase t=1.84sec)とイオン温度が上昇した後の高いイオン温度のタイミング(high Ti phase t=2.24sec)で乱流揺動の違いを2D-PCIで計測しました。

図6-15 LHDにおける高イオン温度放電[25]
図6-15 LHDにおける高イオン温度放電[25]

図6-16にLow Ti phase とhigh Ti phaseで計測したイオン温度、電子温度、電子密度乱流揺動の空間構造を示します。

図6-16 (a-1),(b-1) 電子温度、イオン温度,電子密度分布、(a-2),(b-2) 揺動の波数スペクトル、(a-3),(b-3)揺動の位相速度分布。(a-3),(b-3)中の青線はプラズマのExB回転速度[25]
図6-16 (a-1),(b-1) 電子温度、イオン温度,電子密度分布、(a-2),(b-2) 揺動の波数スペクトル、(a-3),(b-3)揺動の位相速度分布。(a-3),(b-3)中の青線はプラズマのExB回転速度[25]
(a-1), (a-2), (a-3) low Ti phase、(b-1), (b-2), (b-3) high Ti phase

横軸のρはプラズマの図6-7(a)と同様に空間位置を示す座標です。ρ=0がプラズマの中心で、閉じ込め磁場がきれいに形成されている最も外側の位置をρ=1としています。図6-9(a)を参照してください。0.1刻みで1.1まで数字が書いてありますが、それぞれの等高線上の数値が規格化位置になります。(a-1),(b-1)に示すように電子温度(Te)、イオン温度(Ti)はρ=0の値が一番大きく、中心に近づくほど大きな値になっていますね。一方、電子密度(Ne)は中心が僅かにへこんだ分布で平らな分布になっています。(a-1),(b-1)に示すように追加熱をするとhigh Ti phaseではlow Ti phaseに比べて僅かに電子密度が減少しますが、電子温度(Te)およびイオン温度(Ti)が上昇します。このとき、乱流揺動がどのように変わるか見てみましょう。(a-2),(b-2)は乱流揺動の波数スペクトルの空間構造です。波数とは波長lの逆数に2 pを掛けた(k=2p/l)値です。どのような波数成分がそれぞれの空間位置に存在するかがわかります。(a-3),(b-3)は乱流揺動の位相速度(w/k; w;角速度、k;波数)の空間構造を示します。図6-9(a)の等高線に沿って乱流揺動は進行します。図6-9(a)において磁力線はおよそ紙面に垂直方向で、その結果この磁場を打ち消す方向に進行する場合はイオンの反磁性方向、その逆の方向は電子の反磁性方向と呼びます。乱流は温度や密度の勾配が駆動するのですが、どのような物理量の勾配が駆動するかにより性質、すなわち何により不安定になり、何により安定になるかが異なります。これらの性質が異なれば、波数や進行方向が異なるので波数スペクトルや位相速度の情報は重要です。また、揺動の進行のほかにプラズマ全体が回転していることが多く、実際に重要なのは回転しているプラズマの座標系での進行方向です。プラズマ全体の回転は(a-3),(b-3)に示したExB力(プラズマ全体がうけるローレンツ力と考えてください。)によるExB回転速度で決まるため、青線で示したExB回転速度に比べてどのような方向に進行しているのかが重要になります。(a-2),(b-2),(a-3),(b-3)の等高線は乱流揺動の振幅の大きさを対数スケールで示しています。

さた、イオン温度が高くなるhigh Ti phaseでは(b-2),(b-3)に示すように最も揺動の振幅が大きいところが空間位置でlow Ti phaseでr=0.9であったものがhigh Ti phaseでr =0.7付近に移動します。またhigh Ti phaseでは位相速度が増加します。これらの性質は核融合科学研究所の洲鎌英雄教授のグループが行ってきたシミュレーションの結果と性質がおよそ一致していることがわかってきました。詳細は参考文献26-28をご参照ください。

PCIで計測できるのはあくまで電子密度の乱流揺動であることを覚えておく必要があります。閉じ込めのことを考える場合、電子密度のほかに温度やポテンシャルの揺動も特にエネルギーの閉じ込めにおいて重要な役割を果たします。ただ、電子密度揺動に比べてそれ以外の揺動は特に高温プラズマにおいては計測が困難であり、多くの乱流揺動に関する実験研究が電子密度揺動の計測を通じて行われています。

CO2レーザーイメージング干渉計、CO2レーザー二次元位相コントラストイメージングはロシア連ブドカー核物理研究所のLeonid Vyacheslavov教授、Andrei Sanin博士、オーストラリア国立大学のClive Michael博士と長年にわたる国際共同研究で開発してきました。

6-3. マイクロ波協同トムソン散乱

“干渉計とトムソン散乱”の頁でもお話しましたがトムソン散乱というと、核融合研究者のほとんどは電子密度や電子温度を計測する非協同トムソン散乱のことだと考えます。非協同トムソン散乱は多くのプラズマ実験装置で稼動していますが、イオン温度、イオン密度の計測を目的とした非協同トムソン散乱は世界中で現在稼動しているのは二つだけです。一つはデンマーク工科大学が開発した装置でドイツのASDEX-Uという装置で稼動しています。もう一つは我々の研究室で取り組んでいるLHDのシステムです。LHDのシステムは核融合科学研究所のマイクロ波加熱グループの久保伸教授、下妻隆教授、東京大学の西浦正樹准教授のグループと共同で開発を行っています。

図6-17にもう一度、将来の核融合炉と現在の実験炉で起きているプラズマの反応を示します。“大型ヘリカル装置“の頁でもお話したように核融合発電を行うには核融合反応を持続することが必要で、そのためには”イオン”温度 1億度(10keV)、イオン密度1x1020m-3を数秒間閉じ込めることが必要です。実は計測量でより重要なのは電子でなくイオンなのです。しかしながら、プラズマ内部のイオン温度の計測は技術的に容易なものではありませんでした。ここで言うイオン温度は協同トムソン散乱はプラズマ内部のイオン温度を計測できる有用な計測法として注目されて、1970年代から開発が始まり、1980年代の初めには高出力の遠赤外線レーザーを使った初期データが出ました。ただし、SNRが十分でなく物理解析ができる精度のよいデータを取得できませんでした。その後、1980年代に加熱用の中性粒子ビームを用いた荷電交換分光法という計測法が開発されました。荷電交換分光法は不純物イオン(炭素イオンの場合が多い)の発光ラインのドップラー広がりから、不純物イオンのイオンイオン温度を計測します。必要なのは不純物イオンのイオン温度でなくバルクイオン(H+,D+,T+)のイオン温度なのですが両者には大きな差がありません。また、協同トムソン散乱は複数の計測点を取得することが困難であるのにたいし、荷電交換分光法は多くの計測点(現在のLHDのシステムは80点程度)を取得できるので、イオン温度、特に空間分布はほとんど荷電交換分光法で計測されるようになりました。協同トムソン散乱の開発には多大な労力を掛けたのにもかかわらずイオン温度計測の主役を取って代わられてしまったのです。しかし、1990年代に入って高速イオン(現在のプラズマ実験では外部から入射したイオンまたは加速したイオン、将来の核融合では核融合で生成されたアルファ粒子 図6-17参照)の計測に協同トムソン散乱を用いることが提案されました。

図6-17(b) 現在のプラズマ実験炉

当初協同トムソン散乱には高出力の波長0.4mm程度の遠赤外線パルスレーザーが使われていました。1990年代以降加熱やプラズマの点火(電離)に使われていたジィラトロンというマイクロ波領域(波長 2~5mm)の高出力のマイクロ波光源が開発されてきたのでこれが計測に使われるようになりました。信号強度は波長の二乗に比例するため長波長ほど信号強度が強くなります。これは有利なのですが、マイクロ波領域ではプラズマからの放射光(電子サイクロトロン共鳴放射光)があり、この放射光と散乱光の区別が必要でした。そこで、ジャイラトロンを周期的にOn,Offを繰り返してOn時に散乱光+放射光Off時に放射光のみを計測して前者から後者を差し引いて散乱光のみを抽出しました。その他、マイクロ波を用いると、レーザーを用いるのに比べて信号強度が劇的に大きくなることが大きな進展でした。また、散乱角度が大きくなり、散乱体積(図6-8のひし形の部分)の長さが短くなるため空間分解能がよくなるという利点がありました。ただ、1990年代には高出力で安定して発振するジィラトロンがあまりなく、初めて高速イオンの計測を目指した英国にあるJETトカマクではずいぶんとトラブルに悩まされました。当初米国製のジャイラトロンでの計測を試みたのですが、結局ジャイラトロンがうまく動作せず、それを請け負った会社は違約金を払って撤退したと聞きました。そのあとでロシア製のジャイラトロンを導入したのですが、これはすえつけるとすぐに動作したということです。当時の関係者は米国製のジャイラトロンは手がかかって、ご機嫌をとっても動いてくれないお姫様のようだ、一方、ロシア製のジャイラトロンは良く働く農夫のようだといっていました。ちなみに現在我々が使っているジィラトロンは日本製で忠実に仕事をこなしてくれるモーレツサラリーマンというところでしょうか。

協同トムソン散乱も非協同トムソン散乱と同様に散乱スペクトルの広がりから温度を散乱光強度から密度を求めます。図6-18にスペクトルの計算例を示します。図6-18はLHDのプラズマで電子温度(Te)が5keV,バルクイオンのイオン温度(Ti)が5keV,高速イオンの温度(Tifast)が180keV, バルクイオンのイオン密度=電子密度が1x1019m-3, 高速イオンの密度(ni fast)が1x1017m-3のに77GHzのマイクロ波を入射したときの協同トムソン散乱スペクトルの計算例です。横軸の周波数は入射した77GHzのジャイラトロン周波数からの周波数の変化を示しています。協同トムソン散乱はあくまで電子密度の揺動を計測するので信号には電子の情報(図中の赤線)も含まれます。それに加え水色で示した熱平衡イオン、緑で示した裾野を引く高速イオンの散乱信号が合わさった紫線で描いたスペクトルが計測されます。このスペクトルはフィルターバンクと呼ばれる周波数ごとに信号を分割する

図6-18 協同トムソン散乱のスペクトル計算例
図6-18 協同トムソン散乱のスペクトル計算例

マイクロ波回路で周波数ごとに検出されます。ただし、0周波数付近では入射したジィラトロンが周波数シフトせずに真空容器内で反射して検出器に入射するマイクロ波(迷光といいます。)を除去するためのノッチフィルターという、信号を遮断するマイクロ波回路を挿入します。散乱光強度は微小なため、ノッチフィルターがないと迷光が強すぎてマイクロ波回路や検出器を破損してしまいます。

図6-10,6-11にLHDにおけるマイクロ波協同トムソン散乱の計測システムを示します。図6-10は入射したマイクロ波の後方に散乱するレイアウトですが、計測の目的に応じてマイクロ波の入射方向、散乱光の受信方向を変えています。検出した信号は72GHzを発振する信号とミキシングします。協同散乱にの信号は77GHzに対して+-5GHz程度広がるのですが、ミキシングすることにより計測周波数を5GHz+-5GHzに落とすことができます。これは干渉計のところでお話したヘテロダイン検波と同じです。よって、0-10GHzの信号を処理することになります。図6-11に示すように0-10GHzの信号をバルク成分は100MHzステップ、高速イオン成分は200MGHzステップで合計32チャンネルで計測します。フィルターバンク方式のほかに高速サンプリング(10~20GHz)のデジタイザーでサンプリングし、スペクトルを直接計測する手法も併用しています。高速デジタイザーでスペクトルを取得すると詳細なスペクトルがわかりますが、現在のところこの手法ではデジタイザーのメモリーの制限から80msのデータしか取得できません。

図6-10 LHD協同トムソン散乱計測システム(全体図)
図6-10 LHD協同トムソン散乱計測システム(全体図)
図6-11 LHD協同トムソン散乱計測システム(信号処理部)
図6-11 LHD協同トムソン散乱計測システム(信号処理部)

図6-12にマイクロ波協同トムソン散乱システムでのLHDでの計測結果を示します。図6-12(f)がフィルターバンクシステムで取得した協同散乱システムの信号変化を示します。t=5.05secで入射した中性粒子ビームの一つが停止しており、その後、スペクトルの幅が狭くなっていることがわかります。これは入射された中性粒子ビームによる高速イオンが減少しためだと考えられます。さらに詳細な解析結果については参考文献31で報告しています。

図6-12  (a)線平均電子密度、(b) 中心電子温度Te,イオン温度Ti、(c)ECHパワー、(d)垂直入射NBパワー、(e)接線入射NBパワー、(f)CTSスペクトルの時間変化。0GHzは77GHzに対応[30]
図6-12  (a)線平均電子密度、(b) 中心電子温度Te,イオン温度Ti、(c)ECHパワー、(d)垂直入射NBパワー、(e)接線入射NBパワー、(f)CTSスペクトルの時間変化。0GHzは77GHzに対応[30]

6-4. 今後の研究課題

それぞれの計測システムには精度向上のための課題があります。CO2レーザーイメージング干渉計は振動補正の向上による低い密度での計測、および、位相計測精度の向上による振幅の小さい電磁不安定の計測が課題です。CO2レーザー二次元位相コントラストイメージングは微小信号取得のためのSNRの改善、乱流揺動の絶対値較正が課題です。また、CO2レーザー位相コントラストイメージングは2019年から稼動するJT-60SAに設置することを目指した検討をスイス連邦工科大学と共同で進めています。協同トムソン散乱は屈折やECEノイズが小さい高い周波数のシステム(154GHz)の開発を進めています。また、今回はお話しませんでしたが、協同トムソン散乱により複数イオンの密度比の計測も目指しています。このようにそれぞれの計測に研究テーマがあります。

また、計測の開発だけでなくこれらの計測を用いた物理研究も進めていきます。2017年よりLHDにおいて高性能プラズマを目指した重水素実験が始まります。2015年までの実験は軽水素またヘリウムを用いた実験だったのですが、重水素を用いて閉じ込め性能や不安定性、イオン温度、イオン密度、高速イオンの挙動がどのように変わるかが重要な研究テーマになります。

ホームページの日本語版では計測について主にお話し、計測を用いた物理研究について詳細は述べませんでした。これについては今後英語版でお話する予定なのでホームページの記述で物足りないと思われる方はそちらを参照してください。または、日本語版にあげた参考文献を参照してください。

6-5. 日本学術振興会からの補助について

マイクロ波協同トムソン散乱は日本学術振興会より下記の(1)-(5)の、CO2レーザーイメージング干渉計、CO2レーザー二次元位相コントラストイメージングは下記(5)の科学研究費補助金の支援を受けております。ここに謝意を記します。

  1. 平成20-21年 特定領域公募研究 燃焼プラズマ計測、「ジャイラトロンを用いた協同散乱計測」 (研究代表者 久保 伸)
  2. 平成21-23年 科学研究費補助金基盤研究B、「高出力マイクロ波光源を用いた協同トムソン散乱による高速イオン計測手法の開発」 (研究代表者 田中謙治)
  3. 平成24-27年科学研究費補助金基盤研究B、「マイクロ波協同トムソン散乱計測の高精度化と高速イオン物理の新展開」 (研究代表者 田中謙治)
  4. 平成25-27年科学研究費補助金挑戦的萌芽研究、「ミリ波散乱計測を応用した高温プラズマ中の燃料イオンの先進分析手法の提案」 (研究代表者 西浦正樹)
  5. 平成28-30年科学研究費補助金基盤研究B、「マイクロ波協同トムソン散乱の高性能化による閉じ込めイオンの計測と損失機構の解明」 (研究代表者 田中謙治)

参考文献

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  2. Kenji TANAKA, Clive MICHAEL, Leonid VYACHESLAVOV1), Andrei SANIN1), Kazuo KAWAHATA, Shigeki OKAJIMA2), Takeshi AKIYAMA, Tokihiko TOKUZAWA and Yasuhiko ITO, “Improvements of CO2 Laser Heterodyne Imaging Interferometer for Electron Density Profile Measurements on LHD”, Plasma and Fusion Research, Vol2, (2007) pp. S1033-1-S1033-5
  3. K. Tanaka, A. L. Sanin, L. N. Vyacheslavov, T. Akiyama, K. Kawahata, T. Tokuzawa, Y. Ito, S. Okajima, “Precise Density Profile Measurements by using a Two Color YAG/CO2 Laser Imaging Interferometer on LHD”, Review of. Scientific. Instruments., Vol. 75, No.10, (2004) pp.3429-3433
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  5. K. Tanaka, C. Michael, A.L. Sanin, L.N. Vyacheslavov, K. Kawahata, S. Murakami, A. Wakasa, S. Okajima, H. Yamada, M. Shoji, J. Miyazawa, S. Morita, T. Tokuzawa, T. Akiyama1, M. Goto, K. Ida, M. Yoshinuma, I. Yamada, M. Yokoyama, S. Masuzaki, T. Morisaki, R. Sakamoto, H. Funaba, S. Inagaki, M. Kobayashi, A. Komori and LHD experimental group, “Experimental study of particle transport and density fluctuations in LHD ”, Nuclear. Fusion 46 (2006) pp.110–122
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  8. L.N. Vyacheslavov, K. Tanaka, A.L. Sanin, K. Kawahata, T. Akiyama, “Imaging of Turbulence Structure on LHD Using 2D-Phase Contrast”, 4th Triennial Special Issue of the IEEE Transactions on Plasma Science, Vol 33 No.2. pp.464-465
  9. Kenji TANAKA, Clive MICHAEL, Leonid VYACHESLAVOV, Hisamichi FUNABA, Masayuki YOKOYAMA, Katsumi IDA, Mikiro YOSHINUMA, Kenichi NAGAOKA, Sadayoshi MURAKAMI, ArimitsuWAKASA, Takeshi IDO, Akihiro SHIMIZU, Masaki NISHIURA, Yasuhiko TAKEIRI, Osamu KANEKO, Katsuyoshi TSUMORI, Katsunori IKEDA, Masaki OSAKABE, Kazuo KAWAHATA and LHD Experiment Group, “Turbulence response in the high Ti discharge of the LHD”, Plasma and Fusion Research, Vol5 (2010) pp S2053-1- S2053-10
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