田中先生に聞いてみよう。

ここでは学生の皆さんからいただいた質問にお答えしています。あくまで個人の見解ですのでその点はご理解ください。

Q1. 核融合研のある土岐市はどういうところですか?

A1 名古屋市よりJR中央線で40分程度のところにあります。研究所は土岐市にありますが、学生や職員の皆さんは隣の多治見に住んでいる人が多いです。土岐市、多治見市は戦国時代より陶芸の町として有名です。器を作るのでそれに入れる食べ物が充実して、おいしいお店がたくさんあります。最近は東海最大級(らしい)のイオンモールもでき、名古屋のベッドタウンとして都市開発が進んでいる地域です。

Q2. 名古屋市はどういうところでしょうか?

A2 人口220万人の大都市で東海地方の中心都市です。学生に聞くと、博多より規模の大きな綺麗な都会と答えます。東海地区では航空宇宙産業、自動車産業が盛んで、この分野に興味がある人は会社見学などに便利かもしれません。研究所からだと、自動車で下道で1時間半、電車で40分というなかなか遊びに行きやすい距離にあります。名古屋市近辺には名古屋市科学館、JRリニア鉄道博物館、トヨタ博物館など、科学・産業系の博物館がたくさんあり研究者にとっても刺激的なところです。伝統文化だけでなくサブカルチャーの中心地でもあります。SKE48の常設劇場があり(SKEとは名古屋の中心地「栄(SAKAE)」の略)、毎年8月には世界コスプレサミットが開催されます。2023年も栄で開催されました。

Q3. 福岡県から岐阜県に引っ越す必要があるのでしょうか?

A3 修士課程の前期に九州大学筑紫キャンパス(福岡県春日市)で単位を取得し、その後は岐阜県土岐市に移って研究を行います。よって、土岐市・多治見市に引っ越す必要があります。岐阜へ引っ越す際、最初の1ヵ月程度は研究所の宿舎を利用できるので、その期間に住居の選定が可能です。酒井君は実際にその通りにして住居を決めたそうです。

Q4. 学生はいますか?一人だけだと寂しくなりそうで心配です。

A4 核融合研には九州大学連携講座の学生のほかに、総合研究大学院大学、名古屋大学連携講座、東京大学連携講座、その他共同研究に参加している全国の大学の大学院生が約30人程度います。学生部屋は大学の研究室の学生部屋と同じなのでみんな楽しく研究に励んでいます。九州大学の連携講座は田中謙治研究室とは別に、加藤太治研究室もあるため、九大生同士の情報交換もできます。

Q5. アルバイトはできますか

A5 アルバイトはお勧めしません。大学院生の間は勉学と研究に集中してください。というのも、毎年九大総理工では成績上位30%の学生が半額もしくは全額の無利子貸与奨学金の返済免除を受けています。本研究室でも免除の実績があります。ですので、アルバイトをする時間を使って研究を頑張った方が、より良い成果が得られ奨学金の免除の可能性も高くなるでしょう。

Q6. 就職状況はどうですか?

A6 今までのところ学生たちは本人の頑張りの成果か、ほぼ希望通りのところに就職できているようです。
  主な就職先:ニトリ、中部電力、NTTドコモ、日立製作所、九州大学 etc...

Q7. 博士課程に進学しようか迷っています。博士課程に進学した場合就職できますか?

A7 博士課程の学生になると奨学金のほかに研究補助としての手当てをもらうことができます。博士課程の学生は学生というよりは一人の研究者として扱われます。博士課程に進学するには研究に対して強い情熱が持つことが必要です。博士課程終了後の就職は研究職を目指した場合必ずしも簡単ではありません。博士課程終了後すぐに大学や研究機関の正規職員になる方もいますが、博士研究員などを続け、数年後に正規職員になる人も多いです。民間企業に就職する人もいます。最近では博士の学位を持った学生を相応の待遇で採用する民間企業も増えてきており、九大の進路担当のバックアップもあります。いずれにせよ、九大総理工の卒業生で就職できなかったという話は私は聞いたことがありません。

Q8. 学部ではどのような科目を勉強しておけばよいですか?

A8 基本的な数学、物理のほかにできれば電磁気は勉強しておいてください。それから参考資料、論文の多くは英語の文献になるので英語もしっかり勉強してください。英語では、英会話能力も身に着けておくとよいでしょう。核融合の研究は国際協力が盛んで外国の研究者と議論する機会が多いのです。そのような議論がその後の研究のための人脈形成に役立つこともあります。特に最近はzoomなどを使ったネットで国際会議、研究打ち合わせが活発に行われています。そのようなとき、恥ずかしがらずにどんどん英語で発言していく図々しさが必要ですね。

Q9. 英語能力はどのようにすれば身に付きますか?

A9 英語能力を鍛えるには大学の英語の授業だけでは全く不十分です。自分で努力して身に着ける必要があります。読解力を鍛えるにはとにかく英語の論文をたくさん読んでください。英会話能力を身に着けるには、英会話の経験を積んでください。秘訣としては常に、研究以外の内容でもよいので話の“ネタ”を持っておくことです。最近はネットでマンツーマンの英会話教室もあるのでそれを利用するのもよいでしょう。

Q10. 最近核融合のベンチャー企業があると聞きましたが今後の核融合研究はベンチャー企業で行われるのでしょうか?

A10 「ベンチャー企業」というのは利益を出して初めて「ベンチャー企業」と言えます。世界中にはまだ核融合炉で電気を作って利益を出している企業はありません。よって、核融合に取り組んでいる企業は「ベンチャー企業」ではなく「スタートアップ企業」なのです。投資家が核融合の将来性に期待してお金を出すわけです。これら核融合スタートアップ企業は米国、欧州、それと日本にもあります。スタートアップ企業には2系統あり、現在核融合研究の主流のトカマク・ヘリカルを政府機関の研究所より迅速に研究開発を進めることを目指すグループ、もう一つはトカマク・ヘリカルと全く異なった方式で核融合を目指すグループがあります。前者のグループの米国のスタートアップ企業では2千億円調達した企業もあり、これらのスタートアップ企業に政府機関の研究所から移籍する研究者もいます。後者のグループは発想があまりにも斬新的すぎて、多くの科学的、技術的課題が山積しているように思います。
 私は今後も政府機関の研究所が核融合研究をリードしていくと思いますが、これらのスタートアップ企業が成果を上げれば、政府機関の研究所にとっても大きな刺激になり核融合研究の進捗も加速すると思います。

Q11. 研究室で核融合から電気エネルギーを作ることはできますか?

A11 残念ながら、まだ電気エネルギーを作ることはできません。現在は、将来的に電気エネルギーを生成する核融合炉のための基礎研究を行っています。ホームページの“プラズマ実験”のページの図4-2に示すように核融合研究は多くの分野があります。その中で私たちは、最も重要な研究課題であるプラズマ閉じ込めについての研究に取り組んでいます。将来の核融合炉の建設に私たちの研究成果が役立つことを目指しています。

Q12. 最終的な目的ははるかに先にあるのですね。気が遠くなりそうです。

A12 おそらく、30年後には電気を作る最初の核融合炉ができているでしょう。スタートアップ企業の取り組みがうまくいけばもっと早いかもしれません。30年というのはそんなに長い時間ではないのですよ。私も30年前学生だった頃の数々の失敗(特に私生活)を昨日のことのように思い出し、うなされることがあります。それと、核融合プラズマの研究はエネルギーの獲得という最終的な目標を忘れても実は面白いところがたくさんあるのです。たとえば、レーザー計測が動作すればそれだけで感動します。乱流を解析して新しい特徴が見つかれば興奮します。研究の始めるための動機は研究の最終的な目標ですが、研究を続けるために必要なのは目の前の面白さなのです。私たちの研究室で取り組んでいる研究は目の前の面白さに満ちています。

Q13. 先生が学生のころと今の学生は違いますか?

A13 エジプトの古代の壁画に“近頃の若い連中はなっとらん!”と書かれていたそうです、いつの時代も古い世代は若い世代はだめだと言うのですが、私は決してそうは思いません。最近の学生の中には私たちが若い頃よりしっかりした考えを持っている人がたくさんいます。昔(今から30年前)と今で大きく違うのは情報量です。インターネットを介して多くの情報が氾濫しています。わからないことをネットで調べるのは問題ないのですが、数理的な物事をじっくりと考えることがやや少ないような気がします。私たちが若いころはネットもスマホもなかったのでコミュニケーションを取ることは大変だったのをよく覚えています。女の子に連絡を取るときは自宅に電話します。そうするとお父さんが電話に出ることもあるのです。“どのようなご関係ですか?”と聞かれて返事に窮し、思わず“まだ、何もしてません。”と答えそうになったこともありました。

Q14. 研究者は女性にモテますか?

A14 残念ながら研究者だからといって女性にモテることはありません。
ただ、研究のことを女の子と話をするときのネタにすることはできるのですよ。私にはこういう経験があります。ずいぶんと前の話ですがある女性とドライブをしているとき、信号待ちをしているときでしょうか、ふと会話が途切れてしまいました。確か日曜日の夕方だったと思います。フロントガラスから強い夕日が差し込んできました。私は夕日を指差して彼女に言いました。
“俺は太陽を作るんだ。”
“え!?”
“俺の仕事は太陽で起きている核融合反応を地上で実現することなんだ。水素にはね、三つの種類の水素があって、その中で重水素と三重水素の間で太陽で起きているのと同じ核融合反応を起こすことができるんだ。核融合を起こすには大きなエネルギー状態の水素と三重水素を閉じ込めることが必要なんだけど太陽は重力でそれを閉じ込めている。だけど地球上ではそれができないから強力な磁石で閉じ込めるんだ・・・・”
“??”
ハンドルを握って運転していた私には彼女の表情はよくわかりませんでしたが、きっと私の話に感動していたのだと思います。残念ながらその女性とはその後会うことはなかったのですが、核融合の話で大いに盛り上がって楽しいひと時を過ごすことができました。

トップページへ戻る